甲府事件 -集団意識が見た“空” –

異界通信編集部｜特別調査レポート

夕暮れ ― 不意の光

1975年2月23日、山梨県甲府市。
夕刻6時、二人の小学生が学校からの帰り道、暮れゆく空にオレンジ色の光を見た。
それはゆっくりと旋回しながら、まるで“見つめ返す”ように彼らを追ってきたという。

少年たちは墓地の影に身を潜め、息を殺して空を見上げた。
そのとき――光はふいに姿を消し、再び数百メートル先のブドウ畑に降り立った。
土の匂い、冬の冷気、心臓の鼓動。
そしてその中心に、“人ならぬ者”が立っていた。

後に少年たちはこう語る。
それはチョコレート色の肌に皺が刻まれ、のっぺらぼうのような顔をしていたと。
人間のようで人間ではない――その存在が、ゆっくりと少年の背に手を置いた瞬間、
世界が止まったように感じたという。

もう一人の少年は友を抱えて走り、家族を呼んだ。
家族が駆けつけた時、畑には燃えるような光が漂っていた。
母は銀色の物体を見たと語り、父は消えかける輝きを見たと証言した。
それは恐怖ではなく、“何かを伝えようとする”視線のようだった。

翌日、地域では噂が広がった。
「光を見た」「空に何かいた」と証言する人々。
一方で、「子どもの作り話だ」と切り捨てる声も多かった。

報道はセンセーショナルに事件を扱い、全国の注目を浴びたが、
やがて“UFOブーム”の中に飲まれ、真実は曖昧なまま時の彼方へ消えていく。
しかし不思議なことに、目撃者たちは一様にこう語るのだ。
――「恐怖よりも、“見られている”という感覚だった」と。

事件後の調査で、現場のブドウ畑では3本のコンクリート柱が倒壊していた。
金網は重圧で押し広げられ、地面には謎の轍。
放射線を検出したという報告もあり、
マスコミは「未知のエネルギー痕跡」と騒いだ。

だが、柱が折れても木々には傷一つない――という矛盾。
放射線もすぐに消失し、科学的裏付けは得られなかった。
残ったのは、**「何かが起きた」**という確信だけである。

それから50年。
2025年、甲府では記念イベント「UFOKOFU1975」が開催された。
主催は地元の有志団体。
ステージでは少年だった男性が静かに語り出した。

「もう一度、あの夜を思い出したんです。
　信じてもらえなくてもいい。ただ、本当に“いた”んです。」

UFOを笑い話にしていた町が、今ではその記憶を観光資源として抱きしめている。
まるで、否定され続けた記憶がようやく“地上に還ってきた”かのように。

甲府事件の本質は、**“何を見たか”ではなく、“なぜ見たのか”**にある。

あの夜、少年たちは単独で幻を見たのではない。
母親、父親、管理人、近隣住民――複数の人間が同じ時間、同じ方向を見上げた。
それは偶然ではなく、人間の集合意識が一点に収束した瞬間だったのではないか。

UFOとは、天から来る異星の存在ではなく、
**「我々の心が天へ投影した“思考の像”」**なのかもしれない。
科学が証明できないのは、
それが“物理現象”ではなく“心理現象”だからだ。

人間は孤独に耐えかねる生き物である。
夜空の向こうに“誰か”を見つけたい――その願いが形を得たとき、
それは光となって現れる。
甲府事件とは、無意識の集団祈祷であり、
「宇宙に誰かがいるはずだ」という希望の投影なのだ。

この事件が半世紀を超えて語り継がれるのは、
真偽が不明だからではなく、我々自身が今も“空を見上げる存在”だからだ。
つまり――甲府事件とは、“科学未満の宗教”であり、“信仰未満の宇宙”である。

真実は、もはや誰にも確かめられない。
だが、あの夜の少年たちは確かに何かを見た。
そしてその記憶は、50年後の今も“語る力”を持ち続けている。

我々が空を見上げるのは、
そこに何かが“いる”と信じたいからではない。
そこに、自分たちの心が映っているからだ。

甲府事件は終わっていない。
それは、見る者がいる限り続く“心の現象”である。
――空を見上げる行為そのものが、
人類最大の交信装置なのかもしれない。

📍 山梨県甲府市