異界通信 編集部|特別調査レポート
雪山に響く“足並み”
青森県・八甲田山。
その名を聞くだけで、多くの人が連想するのは「雪中行軍遭難事件」。
1902年、199名の兵士が極寒の中で命を落とした、日本陸軍史上最悪の悲劇である。
その地には今も「後藤房之助伍長の像」が立ち、
彼の生還を称える碑文が刻まれている。
しかし、夜になると——
その像の前を兵士たちの行進音が通り過ぎると語られている。
「ザッ、ザッ、ザッ……号令もなく、ただ同じ足音が雪を踏む。」
地元の登山者は口を揃える。
“あの音は、風ではない”。
封印された惨劇 ― 八甲田の赤い霧
遭難事件の夜、山は吹雪ではなく、赤い霧に包まれていたという記録がある。
生存者の一人・後藤伍長も、意識を失う直前にこう語っている。

「霧が赤く見えた。雪が血のように染まっていた」
この証言は長らく幻覚として片付けられた。
しかし近年、同じ地点でドローン映像を撮影した者たちが、
**赤く発光する靄(もや)**を捉えている。
その光は山の谷間を漂い、
まるで何かを探しているかのように動いていた。
呪われた地 ― “後藤伍長の像”
後藤房之助伍長は、極限状態の中で仮死から生還した男である。
だが、後年の記録によると、
彼は「誰かが点呼を取っている声を何度も聞いた」と語っていた。
「番号! ……返事がない。
それでも声は続いていた。もう誰もいないのに。」
その後藤の像が建つ場所では、
深夜になると兵士の影が整列しているという報告が絶えない。
カメラを向けると、一瞬で映像が赤く染まり、
レンズが“曇る”——ではなく、“凍る”という。
まるで霧そのものが記憶を凍らせているかのようだ。
時間凍結説 ― “八甲田時間層”
筆者は、この現象を「時間層の凍結」として考察している。
八甲田山は、極限環境下で“時間が死んだ場所”だ。
温度、意識、鼓動——あらゆる生命のリズムが停止したその瞬間、
時の層が閉じた。
行軍中の兵士たちはその層の中で、
永遠に“進軍”を続けているのかもしれない。
これは心霊ではなく、時間現象なのだ。
死ではなく、終わらない行動。
止まれない兵士たちの「号令なき行進」が、
今も霧の中で続いている。
現地調査 ― 赤く染まる雪
筆者は真冬の夜、後藤伍長像の前に立った。
気温は−14℃、風はほとんどない。
しかし耳を澄ますと、雪を踏む音が確かに聞こえた。
ザッ……ザッ……ザッ……

足音が近づくたび、体温が下がる感覚に襲われた。
息を吐くと、霧が赤く染まる。
ライトを照らすと、誰もいない。
ただ、一列に続く足跡だけが雪上に残っていた。
その時、録音機から“点呼”の声が流れた。
「一番……二番……三番……」
異界の門は今も開いている
2025年現在でも、八甲田山の登山者や自衛隊の訓練者から、
「赤い靄」や「足音」「点呼の声」の報告がある。
遭難事件の慰霊碑周辺では電子機器が誤作動を起こし、
ドローンのGPSが“逆走”することもあるという。
「八甲田では、霧が記憶を閉じ込める」
赤い霧が現れる夜、
そこを通る者は、過去の行軍とすれ違うのだろう。
筆者考察
八甲田の赤い霧は、単なる自然現象ではない。
それは、人の「任務」と「死」が交差した記憶の断層。
生きるためではなく、“命令のために死んだ者たち”。
その想念が、雪とともに凍りつき、霧となった。
彼らは恐らく、まだ“号令”を待っている。
そして、私たちがその地を踏むたびに、
彼らの「最後の行進」は再生される。
八甲田は、戦場ではなく記憶の墓標なのだ。


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